袋井市にある静岡県小笠山総合運動公園の「エコパスタジアム」は、2019年に開催されたラグビーワールドカップで、日本が強豪アイルランド相手にジャイアントキリングを起こした“聖地”。なだらかな丘陵地にあり、スタジアムの周辺には豊かな自然を満喫できる里山の公園が広がっています。
出産を機に、東京都小平市からいつみさんの実家がある袋井市に移住した村山さん一家も、休日に芝生広場でのんびり散歩を楽しみます。
自身が身に付けた技術や知識で人の役に立ちたいと、セラピストとして都内で働いていたいつみさんは、もともと満員電車や人混みに揉まれるような東京での日常が、自分にはあっていないなと感じることがありました。移住を考えたのはコロナ禍の2021年頃から。外出が制限され、家に閉じこもっていることで閉塞感を感じていました。一方で、長年東京でコーヒー関連の仕事に従事してきた大介さんも、カフェの開業を目指して物件探しをしていました。
次第におふたりは東京よりも自然が豊かな環境で生活したいと、関東近郊への移住を考え始めます。そこで、インターネットで情報収集をして、小田原市と秩父市を候補地として検討。実際に何度か下見に出かけました。
「どちらも観光的に訪れるにはいい場所でしたが、暮らすイメージを持つことができませんでした。かといって、これ以上東京に住むのも限界に近くて。そんな時に、私の妊娠がわかりました。最初は里帰り出産を考えていたのですが、そのまま移住したらいいんじゃない?ってことになって。(笑)(いつみさん)」
いつみさんにとっては地元の袋井市。実は移住するなら地元がいいと思ってはいたものの、埼玉県出身で関東圏から離れたことがない大介さんにとって静岡県は少し遠く、不安が大きいのではないかと、言い出せずにいました。そこで市の移住サイトを一緒に見て、まずは袋井市について知ってもらうことにしました。
「そこで見たデータで、袋井市は静岡県の中でも人口増加率が高いと知って、主人がカフェを開くのにもメリットがあると思いました。(いつみさん)」
「確かに不安はありました。でも、何度か来た妻の実家周辺の、自然が広がる風景はいいなと思っていました。まずは住んでみて、もしなじめなかったら、また東京近郊に戻ればいいか、という気持ちで移住を決断しました。実際に暮らし始めて感じたのは、眼前に広がる景観の素晴らしさ。程良く開かれた市街地を少し進めばその周辺には森や河川、田畑が広がり人工物から距離を取れました。
自分が好ましく感じる景色に囲まれて生活する充足感は想像以上にストレスを消し去ってくれるのだなと実感しています。
生活インフラについてもスーパーやナショナルチェーンがあり、掛川、磐田、浜松など近隣の市町へのアクセスも良く、生活には困らない。
特に休日以前住んでいた生活圏ではアウトドアレジャーにどうしてもお金と時間が掛かりました。かといって例えば近郊の公園や河川でお湯を沸かしてコーヒーを淹れて愉しむということができる場所もほぼありませんでした。それが今は車で5分のところに河川公園があり、散歩圏内で野点てコーヒーを楽しめます。楽しめたりします。本当にちょうどいい感じなんです。(大介さん)」
移住するにあたっては、少し心配なことがふたつありました。
ひとつは、いつみさんの出産場所です。インターネットで調べたら、実家の近くに「お茶畑助産院」がありました。助産院は医療機関ではありませんが、医療機関としっかり連携を取っていること。レンタルスペースを併設していて、地域のコミュニティの場にもなっていること。また、無垢の木や漆喰の塗り壁など、自然素材を使った建物が心地良いなど、出産をするにも、その後の子育てにも安心して通える助産院でした。
「東京では母親教室は、出産前に1、2回開催されるだけ。でもお茶畑助産院さんは、出産までの身体の変化や対応の仕方、出産時の呼吸法など、助産院が主体となって細やかに教えてくれました。おかげで陣痛が来た時も落ち着いて、安心して出産に臨めました。産後も赤ちゃんのことや自分の身体のことなど、不安なことはすぐに相談できるので、安心して子育てができています。また、レンタルスペースでは地域の人が開催するイベントやワークショップも多く、ママ友のつながりができます。(いつみさん)」
院長の髙橋美穂さんにもお話を伺いました。
「妊娠中の診察、お産後の検診など、ここでは出産だけでなく、前後のコミュニケーションも大切にしています。移住者は友人や知人が身近にいない中での出産が多く、不安を感じることもあると思いますが、私の助産院にもUターンや移住してきたお母さんがたくさん通ってきます。
また、袋井市では、産後ケア事業として、出産後のお母さんが病院や助産院で育児や授乳の悩みなどの不安を解消するための相談や指導を受ける際の利用料の補助があります。上手に利用して、安心して出産、子育てをしてほしいですね。(髙橋さん)」
村山さん夫妻のもうひとつの心配事は、車の運転でした。公共交通機関が充実している都心では、車を運転する必要がなく、ふたりともペーパードライバー歴が10年以上。運転自体もあまり好きではなかったそうです。移住後は一念発起し、運転の練習を始めました。
「移住した時、私は妊娠8か月だったので、安全を第一に考えて出産後に練習を始めました。最近はようやく慣れてきましたが、まだまだ、近場をドライブして練習中です。車生活は、好きな時間に行きたい場所に、ドアツードアで行けてとても便利。袋井市には駐車場が広いショッピングセンターやスーパーがあるので、混み合った場所でなければ駐車も問題無く、買い物もしやすいです。(いつみさん)」
「僕は、義父に練習に付き合ってもらい、運転の感覚を取り戻しました。遠出や交通量の多いところはまだ不安ですが、生活圏内でもドライブ気分が楽しめるようになりました。車生活が一番心配でしたが、慣れてきたら何の心配もなく、ここでも暮らしていけると思えるようになりました。(笑)(大介さん)」
エコパまでのプチドライブ&自然の中での散歩や、実家からも近い法多山に名物のお団子を食べに行ったり、隣接する森町の小國神社へ出かけたりと、休日のカーライフも満喫しています。
いつみさんは、Uターン移住した袋井市は、上京するまで過ごした頃からアップデートされて、いろいろな施設や魅力的なスポットが増え、新しいまちで暮らしている感覚で毎日が楽しいと言います。子育てが一段落したら、セラピストの仕事も再開する予定です。
「お茶畑助産院さんのレンタルスペースを借りて、少しずつ再スタートするのもいいかなと考えています。子ども連れのお母さんたちも、癒やされに来てもらいたいので(いつみさん)」。
大介さんは、現在、袋井市の隣の森町にある古民家カフェを週2日、間借りする形で自分のカフェを営業しています。いずれは自分だけの店を持つために物件探しも続けています。 東京にいた頃よりも、休日にしっかりとリフレッシュできて疲れにくくなったという大介さん。軽登山やハイキングに最適な山にも出掛けやすく、海にも近い袋井市での暮らしにもすっかり馴染んでいるようです。